共有名義の不動産は売却できる?トラブルを防ぐための基本と解決法【前編】
共有名義の不動産は、売却したくても簡単には進められない――
相続や贈与で複数人が共同所有する形となった不動産。
「自分だけの判断で売れるの?」「他の共有者と意見が合わない…」
こうした疑問や不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
本記事では、共有名義の仕組み・トラブル・売却の方法・必要な手続きまでを、実例を交えながらわかりやすく解説します。
共有名義とは?仕組み・よくある落とし穴をわかりやすく解説
相続した不動産が「共有名義」になっている場合、売却や活用の際に想定以上のトラブルや手間が発生することがあります。
まずは、共有名義とは何か、その仕組みや特徴、注意点について整理しておきましょう。
共有名義・共有持分の仕組み
不動産を複数人で所有している状態を「共有名義」といい、それぞれが持つ所有割合のことを「持分」と呼びます。
たとえば兄弟2人で1つの土地を相続し、登記を1/2ずつ行った場合、それぞれの「持分」は50%になります。最近では、夫婦が共同で住宅ローンを組んで所有するケースも出てきています。
共有名義の不動産は「土地」や「建物」に対して、登記上で誰がどのくらい所有権を持っているかが明記されます。所有者全員の同意がなければ売却などの処分行為ができないため、相続後もトラブルが発生しやすい仕組みであることは注意が必要です。
メリットとデメリット(共有名義であることがもたらす影響)
- メリット
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・相続時にとりあえず均等に所有権を分けることができるため、分割協議がまとまらない場合に登記上は便利。
・固定資産税や修繕費などの費用を共有者間で分担できる。
- デメリット
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・不動産の売却・担保設定など、重要な決定には共有者全員の同意が必要。
・使用方法の違いや感情的対立によって、資産が「塩漬け」になるリスクが高まる。
共有名義のまま放置すると、将来的に「孫世代」まで権利者が増え、売却や活用がほぼ不可能になるケースもあります。
相続前から活用方法や整理を考えておくことで、相続後の選択肢が広がり、トラブルの予防にもつながります。
よくある見落としポイント
共有者の1人が高齢・認知症などで意思表示ができない
売却などの意思決定ができず、成年後見制度などを検討する必要があり、スムーズな計画が頓挫してしまうケースも。
・共有者が遠方在住、連絡が取れない
合意形成に時間がかかり、売却タイミングを逃す可能性あり。
登記が亡くなった親のまま(相続登記未了)
そもそも売却手続きに進めない。法改正により2024年4月からは「相続登記の義務化」が施行され、放置していると10万円以下の過料(罰金)の対象となる可能性も。
特に「連絡がつかない共有者が1人いるだけ」で、売却の足かせになるケースは非常に多く、早めの整理と対策が重要となります。
では、実際に共有名義の不動産を売却しようとしたとき、どのようなトラブルが起きやすいのでしょうか?
次章では、実際の相談現場でも多いトラブル例と、その回避・対策法について詳しく見ていきます。
売れない!?共有名義の不動産で起こる5大トラブルと対処法
共有名義の不動産を売却しようとしたとき、「共有者との意思が合わない」「連絡が取れない」「未登記のまま放置されていた」といったトラブルが発生し、思うように進まないケースが多く見られます。
以下に代表的なトラブルと注意点を整理します。
共有名義の不動産を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。1人でも反対する人がいれば、売却を進めることはできません。
・感情的な対立(兄弟間・親族間のわだかまり)
・共有者の誰かが「今は売るタイミングではない」と主張
・不動産価格や使い道に対する考え方の違い
協議での合意形成が難しい場合は、「家庭裁判所による共有物分割調停・訴訟」も視野に(※時間とコストがかかります)
たとえば「長男が実家に住んで管理しているが、登記上の持分は三兄弟で均等」など、登記の名義と実態が異なるケースは多く存在します。
こうした場合、誰がどれだけの権利を持ち、どれだけの金額を得るべきかといった議論が発生し、分配の話が進まなくなることがあります。
場合によっては「金銭での持分調整」や、「共有物分割協議書」の作成などでトラブルを未然に防ぐことができます。
「何十年も音信不通の親族が1/4の持分を所有している」といった例は珍しくありません。このように共有者の所在が不明な場合、同意が得られず売却ができないという状況に陥ります。
それでも発見できない場合は、「不在者財産管理人制度」を利用することで、家庭裁判所より代理人を選任し、売却手続きを進めることができます。
高齢化社会において増えているのが、共有者の一部が認知症を患い、意思表示ができないケースです。この場合、該当者の持分については勝手に処分することができず、売却全体がストップしてしまいます。
ケースによっては、「事前の名義整理」や「家族信託」の活用も有効
相続後も「亡くなった親名義のまま」の不動産は、法的には誰のものでもなく、売却も活用もできません。
しかも、法改正により2024年4月からは「相続登記の義務化」が施行され、放置していると10万円以下の過料(罰金)の対象となる可能性も。
遺産分割協議書の作成なども必要となるため、早い段階での手続き開始をおすすめします。
解決事例紹介:共有者同士で意見が分かれた土地売却
【兄妹で共有する土地の売却をめぐり、意見が対立していたケース】

亡母から相続した都内の自宅を、兄妹で1/2ずつ共有していたご相談者様。ご本人は「売却は考えていないが、もう1人の相続部分を買い取る資金はない」と困っているとのこと。
もう一人の相続人へ支払う代償金(相続相当分)なども含め、弊社と税理士・司法書士・行政書士とチームを結成し、相続財産の分割提案をまとめました。
結果的に、「売却すれば公平に分配できる」という共通認識が得られ、全員合意のうえで不動産売却・相続登記・相続税の申告までトータルでサポートさせていただきました。
共有名義の不動産は「相続しただけ」では終わらず、放置することでトラブルを引き起こす要因にもなり得ます。だからこそ、状況を冷静に把握し、早い段階で信頼できる専門家に相談することが最大の予防策になります。
次章では、共有名義不動産を実際にどうやって売却していくのか、代表的な方法とその特徴を詳しくご紹介していきます。
共有名義を売却する5つの方法|持分売却・代償分割・分筆など
共有名義の不動産は、通常の単独名義の不動産とは異なり、「誰が・何を・どこまで決めるか」が複雑です。そのため、目的や状況に応じて適切な売却方法を選ぶことが不可欠です。
ここでは、代表的な5つの方法について、メリット・デメリットも含めてご紹介します。
売却方法の比較表
| 方法 | 共有者の同意 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 全体売却 | 全員必要 | 高値で売れる可能性が高い | 誰か1人の反対で進まない |
| 持分売却 | 不要 | 単独で処分できる | 安くなりやすい/買主限定 |
| 共有者間買取・代償分割 | 該当者のみ | 関係を解消しやすい | 資金や税務面に注意 |
| 換価分割 | 全員必要 | 公平に現金分配が可能 | 市場価格で意見が分かれることも |
| 分筆売却 | 過半数の合意 | 土地の個別活用が可能 | 法的・物理的条件に制限あり |
①共有者全員で合意して売却する(全体売却)
もっとも一般的な方法です。全員の同意が前提となるため、スムーズに合意が取れる場合は、最も高値で売却できる可能性があります。
・通常の不動産取引と同様に進められ、買主も見つけやすい
・意思決定の判断がスムーズでコンセンサスが取れやすい
・1人でも反対者がいると売却が進められない
当社では、中立的立場のコンサルタントが入ることで、合意形成からサポートできます。
②自分の持分だけを売却する(持分売却)
共有者の同意が得られない場合、自分の持分のみを第三者に売却することも可能です。ただし、買主が限定されるため、価格が大きく下がる傾向があります。
・共有者の同意が不要
・市場価値が下がりやすく、トラブルの種が残りやすい
・持分を残された親族とは遺恨が生まれる
※ 投資目的で「持分買取」専門の業者が買い取るケースもありますが、後々の法的トラブルに発展する可能性があるため慎重に判断しましょう。
③ 共有者同士で買取る(代償分割)
共有者の一人が他の共有者から持分を買い取ることで、単独所有にする方法です。また、現物ではなく金銭で精算する「代償分割」も一種の買取方法です。
・トラブルが回避でき、単独所有になり共有関係を解消できる
・買取資金を用意する必要がある
・買取金額の調整でトラブルになるケースがある
相続時の評価額と市場価格の相場より極端に安い金額で取引すると受け取った側に贈与税が課されるなど、税務上の注意点もあるため、専門家に確認しながら進めることがおすすめします。
④ 不動産を売却して現金化し、分配する(換価分割)
不動産を売却し、得た代金を持分割合で分配する方法です。
相続時などに使われることが多く、遺産分割協議で換価分割する点、売却代金の分配の割合を明記することが必要となります。
・金銭での精算ができるため公平性が高い
・売却価格によっては意見が分かれることも
相続税の納税資金の確保にも使われるケースが多く、「相続+売却」の流れを見据えた計画が必要です。
⑤ 分筆して売却する(※土地のみの場合)
敷地が広い場合には、土地を物理的に分けて売却(分筆)する方法も検討できます。2023年には分筆に関する法改正があり、共有者全員の合意から「持分の過半数の合意」で分筆が可能になりました。
・各自の持分に応じて登記を行うことで自由に売却や活用が可能
・土地の形状や接道条件により、価格に差がでる場合もある
・分筆した土地が最低敷地面積以下の場合は、建築確認申請が受理されないことも
分筆した場合は、単独所有にするために所有権移転登記を行うため、登録免許税と司法書士への報酬が必要となります。また、分筆するのに測量や境界確認が必要となるため、土地家屋調査士への依頼も必要となります。必要経費がどの程度かかるか事前に確認しておくようにしましょう。
どの売却方法を選ぶべき?
不動産の立地・面積・築年数だけでなく、共有者の関係性や財務状況などによって、最適な選択肢は異なります。「自分のケースではどの方法が良いのか?」という疑問がある方は、まずは状況を整理し、複数の選択肢を比較することが重要です。
当社では、お客様のご希望・事情を丁寧にヒアリングした上で、中立的な立場でベストな方法をご提案いたします。
中立的なコンサルタントが売却に関する状況の整理からサポートいたします。
次は、こうした売却方法を進めるうえで必要となる、実務上の手順や書類について詳しく解説します。
共有名義の不動産を売却する流れと必要書類【チェックリスト付き】
共有名義不動産の売却は、通常の不動産売却と比べて、手続きや必要書類が多くなりがちです。また、誰か一人でも書類を出し渋ったり、連絡が取れなかったりすることで手続きが滞ることもあります。
ここでは、代表的な売却フローを6つのステップに分けて解説します。
共有名義の場合の売却フロー
最初にすべきは、共有者全員で「売却するかどうか」の意思をそろえることです。
・共有者が多いほど調整は難航しやすい
・家庭内の感情的対立が障害になることも
・当社のような第三者コンサルを介すことで、冷静な整理・提案が可能に
不動産が「被相続人(亡くなった方)」名義のままの場合は、まず相続登記(名義変更)が必要です。
・2024年4月から相続登記は義務化
・登記前に遺産分割協議を済ませておく必要あり
・登記の際には全員分の戸籍・印鑑証明・遺産分割協議書などが必要
不動産会社と媒介契約を結び、売却に向けた準備に入ります。
・共有者全員の名義で契約する必要あり
・内見・価格交渉などにも、共有者間での確認が必要になることも
買主との契約時も、共有者全員の署名・押印・本人確認書類が求められます。
・代理人による対応も可能(委任状が必要)
・決済時は、売却代金をどのように分けるか事前の取り決めが重要
・税務処理にも影響するため、分配方法は慎重に
売却後の利益(譲渡所得)に対して、各共有者ごとに確定申告が必要です。
・「3,000万円特別控除」は全員がそれぞれに利用できるが、要件を満たさないと使えないことも
・取得費が不明な場合や、共有持分が複雑な場合は税理士に早めの相談を
最終的に売却代金を分ける段階で、思わぬトラブルが起きるケースもあります。
・あらかじめ「代金分配の書面化」や「代表口座の明確化」を行うと安心
・金額や手取り額で揉める前に、事前の合意がカギ
・遺産分割協議書に基づいた金額配分なら明確でトラブル回避に有効
共有名義売却に必要な主な書類一覧
| 書類名 | 内容と注意点 | |
|---|---|---|
| 登記識別情報(権利証) | 各共有者分が必要。紛失時は再発行手続きあり。 | |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員の署名・実印が必要。売却代金の分け方にも関係。 | |
| 戸籍謄本・住民票 | 共有者・相続人すべてのもの。最新のものを用意。 | |
| 印鑑証明書 | 共有者全員分。契約や登記の際に必要。 | |
| 委任状(代理人がいる場合) | 委任内容が明記されていること。共有者本人の署名と押印が必要。 | |
| 測量図・境界確認書 | 土地売却の場合は必須。なければ土地家屋調査士による作成も検討。 |
※上記の左端にご自身でレ点チェックを入れ活用ください。
ここまで、共有名義不動産の基本的な仕組みや、売却時に起こりやすいトラブル、代表的な売却方法と手続きの流れについてご紹介しました。
共有名義の不動産は、「全員の合意が必要」「管理が煩雑」など、特有のリスクを抱えており、早い段階での整理・方向性の検討が重要です。
もし今、
・他の共有者との意思疎通に不安がある
・売却したいがどこから手をつけてよいか分からない
・相続後にそのまま放置している
このような状況であれば、専門家による状況整理や具体的な提案を受けることで、前に進めるケースが多くあります。
この続きとなる【後編】では、
✅ 売却時の税金と節税の考え方
✅ 売却・保有・その他活用の判断基準(比較表付き)
✅ 実例紹介と専門家の活用方法
など、より実践的な内容を解説しています。