共有名義不動産の売却・節税・判断基準を実例で解説【後編】

共有名義の不動産を売却する際の節税や実際の実例をご紹介したコラムです。

【前編】では、共有名義不動産の基礎や、売却時に起こりやすいトラブル・代表的な売却方法について解説しました。

続く【後編】では、さらに一歩踏み込んで、税務の注意点や活用の判断基準、実際の成功事例、そして専門家に相談する価値についてお伝えします。

共有名義の不動産をめぐる判断は、税金・家族構成・今後の資産戦略など、さまざまな視点を持つことが重要です。
実例も参考に、より自分のケースに近い考え方を整理していきましょう。

共有名義売却で知っておきたい税金のしくみと節税ポイント

共有名義の不動産を売却するときは、共有者それぞれが確定申告を行い、譲渡所得税の計算・納付をする必要があります。また、節税の特例を活用できるかどうかも、共有名義の事情によって異なるため、早い段階で専門家に確認しておくことが重要です。

共有名義の売却で知っておいてほしい税金のしくみ6点をご紹介。

【1】譲渡所得税とは?

不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税(+住民税)」が課税されます。課税の対象となるのは、「売却価格そのもの」ではなく、以下の計算で求めた利益(=譲渡所得)です。

この「譲渡所得」に対して課税されるのが、以下の税金です:

区分所有期間5年超(長期)所有期間5年以下(短期)
所得税15%30%
住民税5%9%
復興特別所得税各年分の基準所得税額の2.1%
※所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定します。
共有名義ならではの注意点

所有期間の判定や課税は共有者ごとに個別に行われるため、全員が同じ条件になるとは限りません。所有期間も長い共有者は「長期譲渡」、短い共有者は「短期譲渡」となり、税率にも差が生じます

このように、共有名義不動産の売却では「誰の名義で何年所有していたか」「持分割合はどうなっているか」によって、課税額も変わるため、早い段階での確認することが重要です

【2】譲渡所得の計算方法

譲渡所得は、各共有者ごとで以下の計算を行いで求めます:

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)

・取得費:土地・建物を購入した金額や仲介手数料、登録免許税など

・譲渡費用:売却時にかかる費用(不動産仲介手数料、測量費、登記費用など)

【3】3,000万円特別控除の落とし穴

「マイホームを売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる」という特例がありますが、共有名義でも全員が“自宅として使用していた場合”に限り適用可能です。

注意点:

・所有者でも住んでいた事が確認できない空き家状態だった物件は対象外のケースが多い

・それぞれが居住していた場合に限り、持分に応じて控除を受けることができるため、居住していない人は対象外。

・書類提出(住民票や使用状況の証明)も必要

【4】取得費が不明なときのリスク

古い実家や相続不動産の場合、購入当時の契約書や領収書が残っていないケースも多く、取得費不明=大きな課税リスクとなります。

対処法:

・土地の場合、固定資産税評価額の倍率方式で推定取得費を計算することも

・税理士が「概算取得費」「譲渡費用の加算」などを活用して調整できることもある

【5】共有名義だからこその注意点

注意点①
各人の持分に応じて譲渡所得と税額が決まるため、申告漏れ・計算ミスが起きやすい
注意点②
共有者ごとに居住要件・控除適用可否が異なることもある
注意点③
特例の適用可否で差が出る場合、公平な分配を巡ってトラブルになることも

【6】専門家に相談すべきタイミング

注意点①
売却を検討し始めた段階

特例適用可否や譲渡益の試算が可能

注意点②
遺産分割や名義整理の前段階

相続後の売却前提なら、分け方次第で税額に差が出る

注意点③
確定申告前

個別の控除・必要書類の確認と申告書作成を依頼

共有名義の場合|譲渡所得税の試算シミュレーション

売却した際の譲渡所得税を3つのケース別で試算

以下は、共有名義で相続した不動産を売却した際のシンプルなケーススタディです。あくまで参考としてご覧ください。

case:A

物件内容・状況実家を2人で相続(持分50%ずつ)
売却価格5,000万円
取得費・譲渡費用取得費1,000万円(全体)
譲渡益(1人)約2,000万円
特例・控除の可否居住用3,000万円特別控除あり
概算税額(1人分)課税なし
備考居住用財産のため控除適用可

case:B

物件内容・状況空き家を3人で相続(取得費不明→概算5%)
売却価格6,000万円
取得費・譲渡費用取得費300万円(全体)
譲渡益(1人)約1,900万円
特例・控除の可否居住していたのは1人のみ
概算税額(1人分)約380万円
備考非居住者は控除不可。課税対象は居住していなかった相続人

case:C

課税額の目安

物件内容・状況収益アパートを2人で相続
売却価格1億円
取得費・譲渡費用取得費3,000万円+費用300万円
譲渡益(1人)約3,350万円
特例・控除の可否居住用特例なし(収益物件)
概算税額(1人分)約670万円/人
備考長期譲渡所得課税(税率約20%)対象

長期譲渡所得の場合、所得税15%+住民税5%で約20%としています。
 例)譲渡益3,350万円 × 20% ÷ 2人 ≒ 約670万円/人

特例の適用条件

・居住用財産の3,000万円特別控除は、実際に住んでいた人または一定の要件を満たす相続人のみ対象
・空き家特例(旧耐震・取壊しなど)の場合は別途条件あり。

注意点:特例の適用や負担軽減を図るには、早めの専門家相談がカギです。

税金の負担や特例の活用可能性を把握した上で、次に考えるべきは、そもそも「売るべきかどうか?」という判断です。

共有名義の不動産は、保有し続けることにもメリット・デメリットがあり、「売却」「賃貸」「他の活用(信託・建替え等)」といった選択肢の中から、収益性・管理負荷・相続対策効果を含めて総合的に検討する必要があります。

次章では、「売却 or 保有 or 賃貸」など、共有名義不動産の活用方針を判断する基準について解説します。

売る?貸す?他の活用?あなたに合った選択肢を見極めるには

共有名義の不動産の活用方法を悩む方も多いはず。その選択肢を見極めるポイントをご紹介

共有名義の不動産をどうするか―― 単純に「売るか、貸すか」だけでなく、「共有名義を解消して活用する」といった選択肢も含めて、総合的な判断が求められます。

ここでは、代表的な活用方法ごとのメリット・デメリットを整理し、判断の参考となる比較表を交えて解説します。

【活用方法1】売却する

メリット

・現金化によってトラブル回避ができる
・相続人間で平等に分けやすい(換価分割)
・管理の手間や税負担がなくなる

デメリット

全員の同意が必要なため調整が大変
・譲渡所得税がかかる場合がある

【活用方法2】保有・賃貸として活用

メリット

安定した家賃収入が見込める
相続税の圧縮効果(貸家建付地評価)も期待できる
・将来的に子世代で活用できる余地も

デメリット

修繕・管理・入居者対応の手間と費用が発生

空室リスクや老朽化リスクも存在

・所有者間の役割・費用負担で揉めることも

・将来の相続(所有者が増える)により調整の負担大

・収益物件の計画で借り入れを行う場合、子供など事業継承者が必要となる

【活用方法3】再設計型の資産活用(建替え・賃貸併用・信託など)

老朽化した物件や複雑な共有名義を整理し、資産価値を最大化する方法です。共有者の合意を前提に、名義の集約や再開発を通じて将来の相続対策・収益性を高めるための再設計の選択肢です。最近では、信託を活用して共有者の合意を簡略化する事例も増えているようなので、参考にご覧ください。

メリット

・共有名義を解消することで、活用や処分の自由度が格段に高まる
・持分調整や名義集約を通じて、建替え・賃貸併用・収益化など選択肢が広がる
・家族構成や将来の相続方針に合わせた、柔軟な対応・資産形成が可能

・「民事信託」の活用で、共有者の意思能力や相続を見据えた長期的な対策もできる

デメリット

共有者間の合意形成や、持分調整などの調整・交渉コストが発生する

・法的な手続き(遺産分割協議、相続登記、信託契約など)や、専門家の関与が不可欠なケースが多い

時間・コスト・専門知識が必要となるため、早期からの準備と支援体制が重要

売却・賃貸・再設計型 判断軸ごとの比較表

<収益性>

売却保有・賃貸再設計型
△ 一時的な売却益のみ◎ 長期的な家賃収入を得られる○ 条件により賃貸併用・信託活用などで高収益も可能

<節税効果>

売却保有・賃貸再設計型
△ 譲渡益課税が発生する場合あり◎ 相続税評価額を圧縮できる◎ 信託や代償分割など節税型スキームを活用できる

<管理負担>

売却保有・賃貸再設計型
◎ 売却により管理不要△ 賃貸管理や修繕が継続的に必要△ 手間はあるが共有名義解消で軽減可能

<共有リスクの回避>

売却保有・賃貸再設計型
◎ 売却で共有関係を完全解消× 共有名義のままリスク継続◎ 名義集約・持分売却などで共有リスクを整理可

<将来の柔軟性>

売却保有・賃貸再設計型
○ 現金化後の資金活用は柔軟△使い道はあるが制約も多い○ 活用幅が広いが柔軟設計が必要
それぞれのケースで向いている人の特徴

・管理の負担が大きく相続人間の調整が困難売却を検討
・収益性が高く、共有者間での管理協議ができる賃貸保有が有利

・家族の相続設計・信託なども含めて検討したい再設計型で最適化

こうした判断をするには、正確な情報整理と将来を見据えた視点が欠かせません。
特に共有名義に関する交渉や調整、売却手続きには専門的な知識が必要です。

中立的なコンサルタントがあなたにぴったりの選択肢を提示いたします。

次章では、実際に共有名義不動産を売却・活用した実例ストーリーをご紹介します。
家族間の調整をどのように進めたのか、どのように専門家が支援したのか――ぜひ参考にしてください。

2つの実例で学ぶ、共有名義の解決アプローチ

共有名義の不動産は、相続後に「売りたくても売れない」「どう活用すべきかわからない」といった課題を抱えがちです。ここでは、実際に当社に寄せられた共有名義に関するご相談のなかから、代表的なケースをご紹介します。

実例①:兄妹間で意見が対立した共有名義の自宅を、合意のもとで円満に売却した事例

共有名義の自宅を双方で納得できる売却方法を見つけるためには?

母親の相続により兄妹で共有名義となった自宅。
長女は現金での清算を希望する一方、長男は資金がなく住み続けたいという状況で、話し合いが進まずにいました。

ネクスト・アイズが税理士・司法書士と連携し、双方が納得できるスキームを設計。最終的に売却によって資金を分配し、兄妹双方の希望を実現した事例です。

主な課題

・長女は「自分の持分に相当する現金の支払い」を要求

・長男は「住み続けたいが資金がない」と主張

・当事者間での話し合いが難航し、感情的な対立も発生

・不動産以外の資産がなく、現金での清算方法が見つからない

解決までの流れ

・相続人の意向を整理し、課題を明確化

・税理士・司法書士と連携し、相続税額・不動産評価額を算出

・居住用財産の3,000万円特別控除が適用できる形でスキームを構築

・一度長男名義に登記し、その後売却を実施

・売却益から長女へ代償金を支払い、双方が納得して合意成立

・売却・登記・税務申告をワンストップでサポート

事例詳細はこちら

実例②:兄弟共有の土地建物、相続後に活用が頓挫しそうに…

相続登記が未完了で売却も賃貸もできない共有名義の不動産の場合

兄弟間の関係を悪化させることなく、共有名義の解消し、お互いに納得できる形で調整。将来的に売却する際も、単独所有のため手続きが簡素になりました。

主な課題

・相続登記が未了で、売却も賃貸も進められない状態
・兄弟間で活用方法について意見が対立し、1名は地方在住

解決までの流れ

・相続登記を当社提携の司法書士に依頼し速やかに完了

・共有者の意向を丁寧にヒアリングし、「売却」・「賃貸」・「持分買取」など複数案を提示

・活用方法について賃貸希望と、それを反対する共有者もいたため、当社が中立的な立場で調整役に

・結果的に、長男が自身の持分を買い取り、他の兄弟は現金化する形で合意

・不動産の名義を一本化した後、賃貸併用住宅へリノベーションして活用

事例詳細はこちら

これらの事例から分かるように、「第三者による中立的な関与」「複数案の提示と調整役の存在」が、共有名義問題の円滑な解決に大きく寄与します。
次章では、そのような専門的支援がどのように価値を発揮するかについてご紹介します。

迷ったら相談!専門家ができること・頼れる理由とは

迷ったら相談できる専門家を見つけておくメリットは?

共有名義という複雑な問題を「自分たちだけで解決しよう」としていませんか?

共有名義不動産の売却や活用は、通常の不動産取引とは異なり、「誰か1人の判断で進められない」「法律・税務・登記・感情面が複雑に絡む」といった多面的なハードルがあります。
こうしたケースでは、不動産に強い第三者の専門家に早期に相談することが、問題の長期化やトラブルの深刻化を防ぐカギになります。

なぜ専門家のサポートが重要なのか?

① 中立的な立場で意見を整理し、合意形成を支援できる

相続人同士の間では、どうしても感情や過去の関係性が影響して冷静な話し合いが難しくなるものです。
当社のような第三者の専門家が間に入ることで、以下のように、「話し合いを前に進める仕組みづくり」が可能となります。

・各共有者の意見を客観的にヒアリング

・複数の選択肢を公平に提示

・合意形成のための調整役を担う

② 実務に強く、煩雑な手続きをワンストップで支援

登記変更、相続手続き、契約書の作成、税務の確認など、共有名義の処理には複数の専門領域の知見が必要です。
当社では、提携の司法書・税理士・弁護士・行政書士と提携し計画を進めます。

ワンストップで進行するため、手続き漏れやミスの心配も最小限に抑えられます。

③ 感情的対立や関係悪化を未然に防ぐ

共有者間でのトラブルは、ちょっとした誤解や伝え方の問題から深刻な争いに発展することも。

専門家が調整役を担うことで、当事者同士が直接対立せずに済む構造を作ることができ、関係の悪化を避けられます。

共有名義の悩みに「実務×感情面」両方で寄り添う

ネクスト・アイズ株式会社では、共有名義・相続不動産に特化したコンサルティングサービスを提供しています。

・一般的な不動産会社や建築会社とは異なり、中立の立場から最適な道を提案

・専門士業(司法書士・税理士・弁護士など)と連携した総合対応が可能

・東京・神奈川・埼玉・千葉を中心に、20年以上のコンサルティング実績とノウハウ

特に、「兄弟で意見が合わない」「共有者の1人が認知症」「連絡が取れない人がいる」などの難しい状況に対して、「感情も配慮しながら現実的な着地点を探る」ことが得意です。

共有名義のご相談は、早い段階でこそ効果的

「登記が古いままだけど、どうすれば…」

「売却したいけど、兄弟の誰かが反対している」

「共有名義のまま放置している不動産がある」

こうしたお悩みがある場合は、まずは状況を整理して選択肢を把握することが最初の第一歩です。
早めの相談が、将来のトラブルや損失を防ぐカギになります。


共有名義不動産は、「誰と所有しているか」によって、その後の活用や売却のハードルが大きく変わります。
しかし一方で、しっかりと選択肢を比較し、適切なタイミングで行動すれば、資産の有効活用や節税効果も期待できます。

特に、共有名義の場合は「合意形成の難しさ」「税務・法律の複雑さ」など、自己判断では対応しきれない場面も多くあります。
そうした際には、ぜひ私たちのような中立的な不動産コンサルタントをご活用ください。

まずは無料相談から、状況の整理や方向性の確認を行ってみませんか?
皆さまの状況に応じた、最適なご提案をさせていただきます。

筆者:不動産コンサルタント 齊藤 誠

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